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2018年6月12日 (火)

ラヴ・レターズ 6/11 18:30〜

@草月ホール
1階 SD列 下手側

メリッサ・ガードナー: 知英
アンドリュー・メイクピース・ラッド三世: 中川晃教

演出: 藤田俊太郎

アッキーが過去2回出演したときは見ていないので、同じ演目で時間が経って、また、相手役が代わってどう変化したのかは私には分かりません。

たわいもない話題を書いてはお互いの環境を分かち合い、すべてを知ろうとしていた若い2人が、知り過ぎたゆえに離れ、別々の道を歩み、いつしかクリスマスカードのやり取りだけになっていくということだけで時間の流れが分かってしまう構成がリアルでした。
2人のような関係ではなくても、大人になれば(日本で言うところの)年賀状のやり取りだけになっていってしまうものですよね。

ツイッターにアンディのパートをアップしているアカウントがありました(もしかしたら、メリッサのもあるのかな?)。

アンディのこの文面、”書くこと”を”音楽”や”歌うこと”に置き換えてみると、そのままアッキーじゃないか!と思えて、一気にグッと引き込まれました。


少年少女とも言えないような子どもの時代から壮年〜初老期まで、2人が交わした手紙を読んでいく。
2人それぞれの人生でありながら、彼らが1つの物語を作っていく過程のようでもありました。

成長しても少女のように可憐で危なかしく自由奔放で少しエキセントリックなメリッサと、背負うものが大きく重たくなっていくアンディ。
2人は何もかもが正反対で、だからこそ月日が経てば経つほどお互いがお互いを求めるしかなかったのでは。

2人の若い肉体は手紙の中の2人によって結ばれることはなかったけれど、数十年の年月の手紙の2人が実体の2人を近づけ、いつのまにか心と身体をひとつに添わせた。



アンディの妻子、そしてアンディを取り巻く状況からしたら、表面上2人の関係は不適切なものに見えるのかもしれないけれど、アンディは手紙という手段でメリッサにすべてを投げ出し、長い時間をかけてメリッサを侵食してきた。そして、アンディはもはやメリッサの中に生きていて、2人はひとつになるべくしてなったのだと思いました。

学校や家族に束縛されることは苦手なのに、アンディの手紙によってアンディに絡め取られてしまうメリッサ。
アンディは自分にそんな思いはなくとも、手紙でメリッサにある種の呪いをかけ続けていたのかもしれません。

同じく手紙のやり取りによって成り立っている『ダディ・ロング・レッグズ』は、ジルーシャの手紙によってジャービスが現実の呪縛から救われる話だけれど、手紙に込められた思いが相手を包み込んでいく様子としては同じなのかも、とも思ったり。

話はずれますが、殺人犯の兄と弟の手紙について描いたミュージカル『手紙』(原作: 東野圭吾)も、演出は藤田俊太郎さん。手紙の持つ力をまったく別方向で取り扱った作品が同じ演出家というすごい偶然。


舞台上には2脚の椅子の間に小さい机、その上にお水の入ったデキャンタとグラスが2つだけ。
知英ちゃんは頻繁にお水を飲んでいました。
それが、メリッサの情緒不安定さやアンディからの手紙を受け取ったときの心の動きを表現しているように見えて、視覚的にとても効果的だったと思います。
白いワンピースもメリッサの少女性の象徴のようでした。

一方、アッキーは1幕2幕通じてほとんどお水に口をつけなかったと思います。それも、アンディがメリッサの手紙と真剣に向き合っているようで、手紙の中のメリッサとの逢瀬を邪魔されたくないというような意志にも感じました。

子ども時代のピュアなラブ、青春時代の性衝動と感情の不一致、別の恋愛、戦争、仕事を得て自分のエリートとしての務めを果たそうとする様子、結婚……
アンディは50数年を駆け抜ける2時間で目まぐるしく変わっていきます。
でも、”手紙を書く”という行為だけは変わらなかった。

朗読劇ではありますが、アンディを演じるアッキーの表情が刻々と大人になっていく様子を見ることができました。
子ども時代から国を動かす立場になるまで、キュートな笑顔とちょっとした角度で顔に陰影をつけて社会的責任のある男の覚悟のようなもの、ただ座っているだけなのに、年齢の経過を感じさせる演技でした。

アッキーは、殊更に声音を変化させるようなこと(わざとしわがれさせるとか、スピードを変えるとか)をしないのですが、壮年期のアンディの声自体に深みを感じさせられました。
これはJBのフランキーでも思ったことなのですが、その深みというのは、キャラクターが(舞台で描かれていない)経験してきた喜怒哀楽が声に宿っているということなのだと思います。
アンディの地位相応のズルさ、したたかさ、それと相反する元来の純粋さ…。それが声に、朗読に現れている。

そして、ラストシーン、極限まで我慢していたものが決壊した感じの最小限の泣き。素晴らしかった!
例えばJBの「Fallen Angel」、例えば『フランケンシュタイン』の「後悔」…アッキーが伝える“喪失”の繊細な表現が大好きです。
刺されるような、えぐられるような痛みというより、心の奥の奥に大切にしまっていたいちばん大事なものにヒビが入ったような、その人にとって最大の悲劇を静かに慈しんで悲しむような涙。

アンディがメリッサの母親宛ての手紙を読むとき、知英メリッサが手紙を介さずアンディに寄り添っている。もうメリッサはアンディの手紙に縛られることはなく、今度はアンディがメリッサの幻に縛られて生きていくことになるのかもしれません。

メリッサとアンディ、演じる役者さんたちの数だけ、その形はあり、また観客それぞれの環境やテンションに寄って受け取るメッセージが異なる物語だと思います。
だからこそ、こんなに長く上演され続けているのでしょう。

最後に、アッキーは客席ではなく上に向かって投げキスを送りました。
アンディから天の上にいるメリッサになのか、アッキーから亡くなられた演出の青井陽治さんに宛ててなのかは分からないけれど、何か温かい感情がその場を満たしていたように感じます。

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